帯域制限ソフト「TCP Monitor Plus」「Traffic Management Controller」の使い方

概要

公式サイト

いずれもWindows 10対応。

TCP Monitor Plus

いわゆるパケットスニッファ。個別のネットワーク接続の詳細をパケット単位でモニタリングできる。

これ単体では、帯域制限などはできない

Traffic Management Controller

実際にトラフィック(ネットワーク通信)の帯域制限をするためのソフト。

ただし、上記TCP Monitor Plusが必須で、しかも上り回線(アップロード通信)しか帯域制限できない。

細かく設定することができ、自分側ポート番号・相手側ポート番号をそれぞれ指定してアップロード容量を指定可能。

帯域制限の方法

両方のソフトが必要なので、それぞれ公式サイトからダウンロードして解凍。

まず、TCP Monitor Plusを立ち上げ、その後Traffic Management Controllerを「管理者権限」で起動。
(アイコンの右クリックメニューから「管理者として実行」を選択)

Traffic Management Controllerのメニューから「帯域制限>設定」を選択。

「帯域制限の設定」画面の表の上で右クリックし、「追加」を選択。

送信限界速度値:帯域制限の上限。単位はKB/s(秒間~キロバイト)。帯域でよく使われるkbs(秒間~キロビット)ではないので要注意。

基本的に、Traffic Management Controllerメイン画面の「送信」欄を見て、現在の上限を把握しながらそれより下の値を設定する。

ポート番号:いずれも「0」に指定すると、すべての通信に対して帯域制限をかける。

送信元ポート:自分側(クライアント側)のポート番号。基本的にはこれを使う。
送信先ポート:相手側(サーバー側)のポート番号。特定サーバーへの接続を制限したい場合に使う。

各接続のポート番号は、TCP Monitor Plusのほうでチェックする(ポート1、ポート2)。

ポート番号の範囲指定:「5000-7000」とハイフンで結ぶと、その間にあるすべてのポートを使った通信を制限対象にできる。

要注意点:>ポートの呼称

同じ作者が同時期につくったにもかかわらず、自分側ポートのことをTraffic Management Controllerでは「送信元ポート」、TCP Monitor Plusでは「ポート2」、相手側ポートのことを「送信先ポート」、「ポート1」と呼んでいる。

さらに左右の位置も逆になっているのでわかりづらく、間違いやすい。

08. 9月 2017 by takasho
Categories: アプリケーション |

[ゲームレビュー] Modern Combat 5 PC版(モダンコンバット5)詳細レビュー

とりあえず手軽にシングルプレイを楽しみたいなら、これ。Windowsアプリのため起動が速く、セキュリティ的にも安心。

元々は「Modern Combat 5: Blackout」という名称で、スマートフォン向けに有料で販売されていたもの。

それだけあって、F2Pとしては全体のクオリティはそこそこ高く、特にシングルプレイのモードは単体でも十分楽しめる(ボリュームや演出は物足りないが)。

単純にアサルトライフルなどで撃ち合うだけでなく、ヘリやボートから機銃を使ったり、スナイパーモードがあったりと、シチュエーションはけっこう多彩。

武器も、マシンガンからショットガンといった標準的なものから、グレネードランチャーやロケットランチャーなどさまざまな銃器が存在し、手榴弾も複数のタイプがある(+地雷)。

操作性

パソコン版は、オーソドックスな「マウス+キーボード」という形のため、特に問題なし。

全体的に動きがややゆっくりなのが気になるが、リアル系のFPSとしてはある程度しょうがないのかもしれない。

スマホ版はオートエイム(エイムアシスト)などの機能はあるものの、本格FPSゆえにタッチパネルでの操作は正直厳しい。

キャンペーン

ストーリーのあるシングルプレイのモード。

単純にクリアを目指す以外に、各ステージごとに設定されたミッション条件を達成することによってスター(☆)を集めていく要素もある。

そのスターが一定数に達すると、次のキャンペーンがアンロックされていくという仕組み。

中盤までは比較的簡単に次へと進めるのだが、それ以降は条件が厳しくなり、早くアンロックしたい場合はゲーム内通貨を使う必要が出てくる。

ちなみにきちんとしたストーリーはあるものの、内容は短く、けっして壮大なものがあるわけではない。演出面もほどほど。

成長要素

プレイヤーキャラクター

複数のクラスに分かれ、単に基礎的な能力が違うだけでなく、そのクラスごとに使える武器が異なっている。

初めは「ASSAULT」(アサルト)クラスしかないが、プレイヤーのレベルが上がっていくにつれて他のクラスがアンロックされていく。

スキルはクラスごとに決まっており、複雑なスキルツリーのようなものはなく、よくいえば初心者にわかりやすく、悪くいえば工夫の余地がなく玄人には物足りない。

普通にシングルプレイを進めていけば、少なくとも1クラスのスキルはすべてマスターできる。

アイテム

基本的には、ボックスからカードを得て、それを複数集めて武器やアーマーなどをアンロックして使えるようにするという、ゲームロフトのゲームでよくあるシステム。

クラスの低いアイテムは、シングルプレイのストーリーモード「キャンペーン」を進めていけばおおよそ手に入るが、それ以降がなかなか集まらない。

効率よくアンロックするには結局課金するしかなく、それをしない人はやることがなくなってゲームから離れていくという、スマホゲーム、ソーシャルゲームにありがちなパターンに陥りやすいのが難点。

マルチプレイ

こちらもマップ、モードともに、種類はそこそこある。基本無料であることを考えれば、必要十分だろう。

ただし、ことマルチプレイそのものに関しては、F2Pのゲームでありがちな、やや格差が出やすい傾向がある。

プレイヤーキャラクターのスキルは比較的すぐに習得できるが、武器と防具(アーマー)、特に前者の性能差が大きいにもかかわらず、その状態で戦うしかないため。

強化にかなりの時間をかけるか、課金するかしないと、ベテランプレーヤーと同じ条件で戦えないのが現実。

プレイヤーのランクに応じたマッチングシステムはあるものの、やや過疎の傾向もあるためか、残念ながらそれ自体あまり当てにならないので、マルチプレイに関しては注意が必要。

できればOverwatch的なアリーナシューターのように、性能差がないモードを実装してほしかった。

ゲーム内通貨、広告要素

ゲーム内通貨は2種類あり、使える状況が異なるため、ややわかりづらい。

広告動画を見ることで、プレイ以外でもある程度はためることができる。

スタミナ制

こちらもゲームロフト作品ではおなじみのシステム。シングルプレイでもマルチプレイでもスタミナをどんどん消費する。

回復手段は以下のとおり。

・時間の経過
・バトルの勝利
・広告動画(CM)を見る
・ゲーム内通貨を使う

スマホゲームでよくあるスタミナ回復アイテムは存在しないので、ややシビア。

全体の感想

基本無料で本格的なFPSを、モバイルでもパソコンでも楽しめることを考えれば、まさに「必要十分」のゲーム。

ただ、どうしてもマルチプレイがpay to winに近いのはネック。残念なのはそこだけか。

28. 8月 2017 by takasho
Categories: ゲーム |

[まとめ] 商用利用・再配布OK、利用報告の必要もない、フリーの漢字対応フォント

【2017年08月25日 追記・修正 『Noto Sans CJK JP』】

最近では商用利用もフリーな日本語フォントが増えてきたが、デザイン利用はともかく、プログラムなどでフォントファイルそのものを使う場合、再配布もOKでないと問題が出てくる。

そこで、常用漢字に対応し、利用報告の必要がなく、商用利用できて、かつ再配布もOKなフリーフォントを集めてみた。

なお、再配布や改変についてライセンスが明記されていないものがあるものの、「自由に使っていい」などの表記がある場合は、このリストに含めている。以下の表記があるものには、少し注意してほしい。

再配布:OK?
改変:OK?

IPA系

ipa-mincho

リンク
改変:OK
ライセンス:規約文書を添付すること。

IPAゴシック、IPA明朝など。

おなじみのフリーフォント。ほとんどの場合、このゴシック・明朝で十分。

IPAexは、等幅とプロポーショナルのフォントをひとつに統合したもの。

IPAmjは、漢字の種類などを拡張したもの。

改変OKなのだが、規約にユーザーが元に戻せるようにしなければならないとあるので、元ファイルを添付するか、公式サイトへのリンクを明示しておく必要がある。

梅フォント

リンク
改変:OK
ライセンス:mplus license

明朝体とゴシック体の両方がそろっている。

ゴシック体:可変幅フォント、固定幅フォント、UIフォント
明朝体  :可変幅フォント、固定幅フォント
教科書体 :梅明朝S、梅ゴシックS

M+ OUTLINE FONTS

リンク
改変:OK
ライセンス:独自(ほぼフリー)

やわらかい感じだが、デジタルフォントらしくきっちりとしている。無償とは思えないクオリティ。

さまざまなフォントウェイト(太さ)、等幅、プロポーショナルなどが用意されている。

残念ながら、まだ漢字で対応されていないものがあるため、後述の他のフォントと組み合わせたものが使われることが多い。

こちらのブログを見ればわかるとおり、現在も開発がつづけられている。

M+系:MigMix(ミグミックス)フォント

リンク
改変:OK
ライセンス:IPAフォントライセンス v1.0(規約の添付)

M+の足りない漢字をIPAゴシックで補ったフォント。

単に合成しただけでなく、さまざまなバランス調整も行なわれている。

後継のMiguなどもリリースされている。

M+系:JKゴシック

jk-l-mihon-1

リンク
再配布:OK?
改変:OK?
ライセンス:独自

「平仮名・片仮名が女子高生風(?)な可愛いフォント」。

漢字部分はM+を利用している。そのため、平仮名・片仮名が独特で素晴らしいだけに、やや漢字と雰囲気が異なり、違和感が出てしまっているのが残念。

改変や再配布に関しては触れられていないが、「自由に使って頂いて大丈夫」とのことなので、おそらくOK。

M+系:超極細ゴシック体

リンク
再配布:OK?
改変:OK?
ライセンス:独自

『「超極細」を目的とした 大きな紙をもとにボールペンを定規でなぞったようなイメージ』。

M+をベースに、全体の線を細くしている。

なお、そのため「小さな文字サイズでの使用の場合、印刷した時にかすれて見えなくなる可能性が高い」とのこと。

Noto Sans CJK JP

リンク
再配布:OK
改変:OK
ライセンス:Apache license

比較的オーソドックスなゴシックフォントで、見やすい。

GoogleとAdobeが共同で開発しただけあって、クオリティは高い。

青梅ぷらすゴシックP

リンク
再配布:OK
改変:OK
ライセンス:mplus license

やわらかいポップな雰囲気のひらがな部分が特徴の合成フォント。

同サイトでは、他の合成フォントも公開されている。

漢字  :梅フォント
カタカナ:M+
ひらがな:独自

注意点:
・縦書きに非対応

Cinecaption(しねきゃぷしょん)

リンク
  http://chiphead.jp/font/htm/cinecaption.htm
改変:不可
ライセンス:独自

映画・ドラマの字幕のような雰囲気のフォント。

現在は公式サイトが消滅してしまっているため、Vectorからダウンロードするしかない。

いろいろなところで再配布しているが、作者本人がアップロードしたものはおそらくVectorのみ。

フォントポにほんご

image_nihongo

リンク
改変:OK
ライセンス:IPAフォントライセンス v1.0(規約の添付)

手書き風だが、カクカクとした独特の雰囲気。

ゴシック体に近く、実際、漢字はIPAゴシックのものを利用している。

ライセンスはIPAフォントのものなので、そのライセンスに従う必要がある。

ぼくたちのゴシック

image_boku

リンク
改変:OK
ライセンス:IPAフォントライセンス v1.0(規約の添付)

やわらかい雰囲気のゴシック体。

漢字はIPAゴシックのものを利用している。

ライセンスはIPAフォントのものなので、そのライセンスに従う必要がある。

みかちゃんフォント

リンク
改変:OK(限定)
ライセンス:フォントそのものの販売は不可(改変したものを含む)。特にライセンス文などを添付する必要はない。

女性の手書き風フォント。堅すぎず崩れすぎずちょうどいい感じ。

プロポーショナルとプロポーショナルの太字のものもセットになっている。

押出Mゴシック(おしだしエムゴシック)

リンク
改変:OK
ライセンス:M+ FONT LICENSE

細めのマジック(マーカー)で書いたような、シャープな雰囲気の字体。

M+系の「M+1c Thin」をベースにしてつくられた。

たぬき油性マジック

リンク
改変:OK(限定)
ライセンス:出版社で発行する雑誌、書籍、CD-ROMへの収録の場合は要報告。フォントやその改変物そのものの販売は禁止。

マジックで書いたような質感のフォント。

きろ字

リンク
改変:OK
ライセンス:New BSD License

手書き風フォント。

修正BSDライセンスなので、非常に自由度が高く、かつライセンス面でも安心感がある。

花園フォント

リンク
改変:OK
ライセンス:独自/SIL Open Font License(デュアルライセンス)

常用漢字だけでなく旧字体なども含み、さらには中国語・韓国語の漢字までも含むものすごい明朝体。

その分、フォントサイズが18MB超ととんでもないことになっているので、特定の用途以外ではあまり使わないかもしれない。

花園明朝A(HanaMinA.ttf)と花園明朝B(HanaMinB.ttf)があるが、後者は前者に入りきらなかった漢字のみのフォントファイル。通常は、前者を使う。

デュアルライセンスといっても、オープンソースライセンスが必要なユーザーのためにそうしているだけ。ほぼ完全フリーの独自ライセンスだと考えていい。

フォントは、明朝体の中でもエッジが立っていて全体的にシャープな印象。

派生フォントもある(公式サイトを参照)。

たれフォント

リンク
改変:OK
ライセンス:ほとんど制限なし

その名のとおり、たれた感じのフォント。

補記

想像以上に数が多い。随時追加していこうと思う。

25. 8月 2017 by takasho
Categories: 素材 | Tags: |

[自作小説] 短編:『Machina』

昔書いたSFの短編小説。

概要

荒廃した世界、逃げ惑う者たち。「構造体」の下部へ向かうジェイルとヤリナの二人は、いやおうもなく戦いに巻き込まれていく。

リンク


 暗闇は延々と続いていた。
 下へ下へと伸びる螺旋階段はその果てが見えず、たちの悪い抽象絵画のようだったが、阿鼻叫喚の渦巻くこの場所はまぎれもなく現実世界だった。
 数え切れないほどの人々が我先にと階段を駆け下りていくものの、その鉄製の手すりはほぼすべて壊れてしまっているがために、中央の暗い闇に落ちていく運の悪い人間があとを絶たない。
 階段は狭く、せいぜい二人が通るのがやっとのところを無数の人間がひしめき合い、ある者は他者を押しのけてでも前へ進み、またある者は銃を抜いて殺し合いを始めた。
 まさに生き地獄。
 どこにも救いはなく、あるのは絶望ばかり。尊いはずの命があまりにもあっけなく失われ、暗い闇の底へと消えていく。
 青い目のジェイルと赤い爪のヤリナの二人は、そんな中を下へ向かって急いでいた。
 二人ともに戦闘用の強化服を着込み、手にはすでにカスタマイズされたレーザー・タイプの銃がしっかと握られている。
「ヤリナ、大丈夫か?」
「うん」
 鳶色の髪がすでに煤やほこりで汚れてしまっているヤリナを、灰色の髪をしたジェイルがさりげなく気遣った。
「それよりジェイル、前」
 静かに言われてその方向を見やる。
 暗がりの中でも光学探知機能のついた目が自動で光量を補正し、正確な視界を得る。
 それにより、状況をはっきりと確認できた。
 前方では、複数の男たちが激しい戦闘をくり返していたが、原因はよくわからない。
 ――仕方がない、やるか。
 ジェイルは迷わず決断した。
 最も手前にいた男の人工脳部分に無線で強制介入し、|記憶《メモリ》をあさってみる。
『さっさと行け、オラァ!』
『行きたくても行けねえんだよ、ばか野郎ッ!』
 くだらない、という言葉が思わずもれそうになる。
 きっかけはひどく些細なことだったが、それが凄絶な殺し合いにまで発展してしまうとは。
 人類の殺人のきっかけは、太古の昔より大半が似たようなものだと言われているが、それが自分たち人間という種族の限界なのだろうか。
 あまりにもくだらなく、情けない。
 あんなことに、今この状況下で巻き込まれるわけにはいかなかった。
「跳ぶぞ」
「うん」
 ヤリナに呼びかけ、強化服のモードをノーマルからアドバンストへ強制移行する。
 二人は同時に両の足にありったけの力を込め、頭上にある階段に触れそうになるほど跳び上がると、愚かな戦いをつづける男たちの上をあっさりと通り越していった。
 その着地はおそろしくゆるやかで、ほとんど音もなく通路の先のところへ下り立った。
「ジェイル」
 上空から広域の情報を入手したヤリナがいつもの無表情な顔を向けてきた。
 付き合いが長いからこそわかる、その目には危惧するような色があった。
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20. 8月 2017 by takasho
Categories: オリジナル小説 | Tags: |

[自作小説] 短編:『もう一度、あのフィールドへ』

【2017年08月18日更新】「Ouka Creative Network」にも投稿

以前書いた短編小説を加筆修正して、『Machina』と同じくここに公開。(以前投稿していたアットノベルスというサイトが消滅してしまったため)

Ouka Creative Network
小説家になろう

あらすじ

投手・西野は高校野球、しかも甲子園で大活躍をする。しかし、大会中から肘に違和感があった彼に、その後過酷な運命が待ち受けていた――


 強烈な日差しが上空から降りそそぎ、地面からの照り返しで足元からも容赦のない暑さが込み上げてくる。だがそれ以上に、内側から発する〝熱さ〟のほうが遥かに大きく激しかった。
 西野洋平はマウンドに立っていた。周りからは、凄まじいまでの声援が飛び交い、異様なほどの熱気に包まれている。
 無数の視線が混合してひとつの迫力となり、フィールドに向かって一直線に押し寄せる。
「ニシ、大丈夫?」
 キャッチャーの花田が、自身も汗だくになりながらピッチャーの西野を気づかった。
「大丈夫っちゃあ大丈夫だけど……」
 ユニフォームの袖で、気休めに汗をぬぐう。
 延長一一回裏、2アウトながら一塁にランナーがいた。
 球数は、すでに一五〇球を超えている。今マウンドに仲間が集まり、そこへ伝令も来ているのは、監督がタイムをとったからだった。
「投げられるなら投げろって監督が」
 と、伝令の春山。
「でも、投げすぎだろ。もう限界だって」
「…………」
 ――いわれなくても、そのことは自分自身が一番よくわかっている。
 スタミナには自信があるほうだ。これまで徹底して走り込み、それを欠かしたことは一日たりとてなかった。
 だが、左の肩と肘は間違いなく限界に差しかかっている。
 異様に熱をはらんでいるのが自分でもわかるし、何より球に威力がない。
 悔しいが、ストレートを投げてもキャッチャーの手前でお辞儀している。
 マウンドの上に、沈黙の幕が下りた。
 いつもは明るいチームメイト。どんな窮地に追い込まれても冗談を言い合えるほどなのに、今ばかりは皆、何と言っていいかわからないでいた。
 ――俺のことを心配してくれているんだ。
 西野は、ひとつ大きく息をついた。
 今のチームには、主力となるピッチャーが自分しかいない。
 三年生には控え投手がひとりもおらず、二年生にさえ二人しかいない。あとは、一年生に三人いるだけだ。
 ベンチ入りしている投手は、そのうち三人のみ。しかも、この甲子園で通用するレベルにあるのは、たったひとりしかいない。
 答えは、初めから決まっていた。
 ――俺が投げる。
「大丈夫、あと二回くらいならなんとかなるって。だから次の回、かならず点取ってくれ」
 そう冗談めかして言うと、やっとチームメイトにいつもの笑顔が戻った。みんなでかけ声を出してから、野手たちは勢いよく散っていった。
 西野は一度、真っ白のロージンを手に取り、こころを落ち着かせた。
 ――とにかく、目の前のバッターを打ち取ればいい。
 ロージンを投げ捨て、相手と正対する。
 二番の左バッターだ。確か、今日は一安打しか許していないが、あれは強烈な当たりだった。
 引っぱらせたくない。もしライト方向へ抜けたら、一塁ランナーにサードまで行かれてしまうだろう。それだけは避けたかった。
 とにかく、相手のクリーンナップまで回すと苦しくなることはわかりきっている。慎重すぎるほどに慎重に投げるしかなかった。
 ランナーを気にしつつ、クイックで外角へのカットボールを放った。
 完全なボール。少し力みすぎたのかもしれない。
 それよりも、一塁ランナーに走る気配がないのに驚いた。
 もう2アウトなのだから、ここで刺されてもたいして痛くはないはずだ。反対に盗塁を成功させれば、一気にサヨナラのチャンスになる。
 ――サインが出てないのか?
 そんなことを気にしながら二球目を投げた。
 ストライクを取りにいったストレートだったが、低すぎる。
 ボール。2-0とカウントが悪くなってしまった。
 ――ランナーが走らない。
 相手のベンチは、無理をしてランナーをスコアリング・ポジションに進めるよりも、三・四番へつなぐことを優先して考えているのかもしれない。
 ここは、バッターに集中してよさそうだ。
 花田が出すサインは、もう一度カットボール。直球のコントロールの悪さに不安を覚えたのだろう。この状況では、変化球での外角攻めが当然のセオリーだ。
 自分のカッターは、スライダーの握りで直球の投げ方をする。
 次は、どうしてもストライクが欲しい。渾身の力を込めて、花田のミットを目がけて放った。
 しかし、
 ――真ん中に!?
 アウトコースへ投げたはずのボールが、インコースへ飛んでいく。それがゆるく変化して真ん中寄りへ入っていった。
 ――しまった。
 一瞬のうちに、投げた西野も受ける花田も、背筋に悪寒が走った。
 それはまぎれもなく、最悪の〝ホームランボール〟だった。
 金属バットの甲高い音がフィールドに鳴り響く。
 その直後、花田の背後でバックネットの揺れる音がした。
 ファウル。
 ――助かった。
 こころの底から安堵の息をつく。
 バッティングのうまい選手だったら、確実にとらえられていた。相手が二番バッターだったことに救われた格好だ。
 ――ファストボール系の球はもうきつい。
 カッターはもちろん、持ち玉のツーシームも厳しそうだ。思ったよりも腕に力が入らない。
 今は肩の張りよりも、握力の低下のほうが問題だ。
 ボールのコントロールがきかない。このままだと、一球一球冷や冷やしながら投げなければならなかった。
 捕手の花田もまったく同じ思いだったからこそ、サインは外角へのスライダー。皮肉にも、さっきのインコース寄りの球が相手を混乱させているかもしれないと踏んだ。
 その予想は当たった。投げた球はそれほど厳しいところを突いたわけではなかったが、相手バッターは完全に見逃してくれた。
 これでカウントは2-2。いよいよ勝負時だ。
 だが、決め球のツーシームは投げられそうになく、外角へのカッターもスライダーもさすがにもう無理だ。
 ――残るは、ゆるいカーブくらいか?
 追い込んでからのスローカーブはリスクをともなう。相手の意表を突ければいいが、もし読まれていたらこれほど打ち頃の球はない。
 だが、花田もそれしかないと考えているはずだ――そう思っていた。
「え?」
 思わず小声でつぶやいていた。
 サインはウエスト。つまり、外へ一球外せということだ。
 ――けど、3-2になるぞ!?
 花田が予想していることが何かはわかる。しかし、それが外れればフルカウントになって、完全にこちらが苦しくなってしまう。
 だが、迷いはすぐに吹っ切れた。すべてを割り切って投球動作に入る。
 ここまでずっと、あいつと一緒にやってきた。土壇場だからこそ、最後の最後まで信じたかった。
 次の瞬間、一塁ランナーが動くのが見えた。
 ジャックポットは、こちらに微笑んだ。
 外角高めへと外されたボールを受け、花田がセカンドへ向かってすぐさま投げた。
 最高の送球。
 ――アウト。
 西野と花田がほっとすると同時に、二人に笑顔が弾けた。
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18. 8月 2017 by takasho
Categories: オリジナル小説 |

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